秋の実りが終わり、冬の足音が聞こえてくる頃――「十日夜(とおかんや)」という言葉を耳にしたことがありますか?
あまりメジャーではないかもしれませんが、実は日本各地に古くから伝わる、大切な節句のひとつなんです。
月の美しさに感謝し、農作物の実りを祝福し、そして次の季節の豊かさを祈る。
この時期ならではの、素朴で温かい風習や、子どもたちのかわいらしい風習が残る地域もあります。
今回は、そんな「十日夜」の意味や由来、各地の行事や楽しみ方まで、わかりやすくご紹介します。
秋から冬へと移ろう日本の風景と人々の想いに、ぜひふれてみてください。
十日夜とは?その意味と起源
十日夜っていつ?
十日夜は、旧暦10月10日を祝う行事。現在の新暦では、毎年11月中旬頃にあたります。
旧暦の行事なので、毎年日付は変わりますが、地域によっては11月10日やその前後に固定して行うところもあります。
十五夜(旧暦8月15日)や十三夜(旧暦9月13日)と並ぶ「三大月見」の一つとも言われています。
とはいえ、十日夜はお月見というより、農作物の収穫を終えた田の神さまを送り出す“感謝と祈り”の行事なんです。
起源はどこから?
十日夜のルーツは、稲作と深く関わっています。昔の人々は、春に山から降りてきた田の神さまが、秋の収穫が終わると山へ帰っていくと信じていました。
その神さまを丁寧に見送り、また来年も豊作でありますようにと祈る。
そうした信仰と暮らしが結びついたのが、十日夜なんですね。
地域ごとに異なる十日夜の風習
関東地方の「かかし供養」
関東では、田んぼでお世話になった「かかし」を供養する地域があります。
田の神さまの“分身”とされたかかしを大切に扱い、焼いたり、川に流したりしてお別れをします。
子どもたちがかかしに手を振って「ありがとう!」と叫ぶ姿は、なんとも心温まります。
長野の「藁鉄砲(わらでっぽう)」
長野県や新潟県では、十日夜に子どもたちが藁を束ねて作った“わらでっぽう”で地面を叩く風習があります。
「地面の中にいるモグラを追い払って、来年の農作業がうまくいきますように」と願いを込めた、可愛らしい儀式です。
パーンッという軽快な音が冬の訪れを告げる、そんな風景が広がります。
福島・群馬の「豆まき」
豆まきといえば節分のイメージが強いですが、十日夜にも豆をまいて悪霊を追い払う地域があります。
秋から冬へ、季節の変わり目には“邪気”が入り込みやすいとされ、無病息災を祈る大事な意味が込められています。
十日夜に込められた暮らしの知恵
季節の節目を大切にする心
十日夜のような行事は、単なるイベントではありません。
自然のリズムに合わせて暮らしていた昔の人々にとって、「節目を祝う」ことは、生きるための知恵でした。
収穫の喜びと感謝、そして次の季節への備え。
そんな“暮らしの哲学”を、私たちも現代に取り入れたいですね。
子どもたちに伝えたい「地域の行事」
今では忘れられがちな十日夜ですが、地域によっては保育園や小学校で伝承遊びとして行われているところも。
スマホやゲームでは味わえない、季節の変化や地域のつながり。
そうした体験を子どもたちに残していくことも、大人の役目かもしれません。
現代の十日夜の楽しみ方
家族で月を見ながら団らんを
十五夜や十三夜ほど有名ではないものの、十日夜にもお月見をする地域があります。
特別な団子やお供え物がなくても大丈夫。
秋の夜長、家族で「ありがとう」を伝えながら空を見上げる――それだけでも、十分に心豊かな時間になります。
手作り行事食で季節を感じる
地域によっては、この日に収穫祭のようなごちそうを用意する風習もあります。
炊き込みご飯、根菜たっぷりのけんちん汁、旬の果物など。
ちょっとだけ手間をかけて、秋の味覚を囲む食卓をつくってみては?
十日夜から学ぶ、日本人の心
感謝と祈りを忘れない姿勢
十日夜に限らず、昔の人々は日々の暮らしの中で、自然や神さまに「ありがとう」と言うことを忘れませんでした。
当たり前のようで、つい忘れがちなこの気持ち。
十日夜という風習から、今を生きる私たちも改めて思い出したいですね。
ささやかな行事こそ、心を豊かにする
煌びやかなお祭りではないけれど、十日夜のような素朴な行事こそ、人の心を整えてくれる力があります。
「今日は十日夜だから、ちょっと空を見てみようかな」
そんな気持ちの余白が、きっと心に優しい灯をともしてくれます。
まとめ
十日夜は、旧暦10月10日に行われる、日本の秋の終わりを彩る伝統行事。
稲作文化と深く結びついた風習で、田の神さまへの感謝と祈りを込めて、地域ごとにさまざまな形で受け継がれてきました。

現代ではあまり知られていない行事かもしれませんが、その背景には、日本人の自然との向き合い方や、季節のリズムに寄り添った暮らしの知恵が詰まっています。
子どもたちに伝えたい地域文化、家族で楽しむ団らんの時間、日常の中のちょっとした気づき。
十日夜は、そんな温かな“きっかけ”を与えてくれる行事なんです。
忙しい毎日だからこそ、ふと立ち止まって、秋の夜空に想いを馳せてみてください。
そこにきっと、忘れかけていた「日本の心」が見えてくるはずです。