鳳仙花に込めた想い〜はじける花が教えてくれること〜

「触れると、はじける――」。そんな不思議で可愛らしい花、鳳仙花（ほうせんか）をご存知ですか？夏の終わりに赤やピンク、白の鮮やかな花を咲かせ、種が熟すとちょっとした刺激で「ぷちっ」と弾けて種を飛ばす。その様子が子ども心をくすぐり、かつては夏休みの風物詩として親しまれてきました。

けれど今、道端や庭先で鳳仙花を見かける機会はずいぶん減りました。昔ながらの日本の暮らしや遊びが少しずつ失われていくなかで、鳳仙花もまた、そっと忘れられつつある存在なのかもしれません。

この記事では、そんな鳳仙花の魅力をあらためて掘り下げてみたいと思います。花としての美しさだけでなく、その咲き方やはじける種に込められたメッセージ、そして子どもたちとの関わり方や日本の風習まで。鳳仙花が持つ“ストーリー”を知ることで、きっと今までよりもっと身近で、いとおしい存在に感じられるはずです。

鳳仙花ってどんな花？

鳳仙花はインパチェンスという学名を持ち、もともとは熱帯アジアが原産の植物。日本には江戸時代頃に渡来したといわれています。花の色はピンクや赤、白、紫などバリエーション豊かで、夏から秋にかけて咲き、ひときわ鮮やかに庭や畑の隅を彩ってくれます。

背丈は大人の膝ほど、茎は柔らかくて瑞々しく、葉はギザギザとした形。どこか儚げで、でも凛とした佇まいが印象的です。

鳳仙花のいちばんユニークな特徴は、やっぱり種の“はじけ方”。花が終わったあとできる実（さや）は、熟すとちょっとした刺激でパチンとはじけて、種を遠くまで飛ばします。

これは「自動散布（オートコリー）」と呼ばれる植物の戦略で、風や動物を使わずに自力で子孫を広げていく手段なんです。子どもたちが夢中になって指ではじいて遊ぶのも、この自然の仕掛けあってこそ。まるで命のエネルギーが弾け飛んでいくようで、見ていてとても生命力を感じます。

「鳳凰（ほうおう）」という伝説の鳥の名前が入っているのも印象的ですよね。諸説ありますが、花の形が鳳凰のとさかに似ていることから「鳳仙花」と呼ばれるようになったと言われています。中国では「鳳仙花（フェンシェンホワ）」と書き、古くから薬草や染料としても親しまれていたそうです。

昭和の頃までは、鳳仙花の花びらを使って爪を赤く染める遊びが、女の子たちの間でよく行われていました。花びらをつぶし、ミョウバンなどと一緒に爪にのせて包むと、ほんのり赤く染まるんです。

「きれいになりたい」「大人みたいにおしゃれしたい」そんな女の子の気持ちを満たしてくれる、可愛い小さな通過儀礼のようなものでした。今では見られなくなったこの風習も、鳳仙花と女の子の優しい関係を物語っています。

鳳仙花の種のはじけ方や発芽の様子は、子どもたちにとってとても興味深い観察対象。発芽のスピードも早く、花もよく咲くため、自由研究にもぴったりなんです。

観察日記をつけたり、種の飛び方を比較したり。親子で育てながら学びにつなげられるのも、鳳仙花のいいところです。

あの柔らかそうな茎や可憐な花とは裏腹に、鳳仙花は実はとってもタフな植物。乾燥や暑さにも強く、多少手をかけなくてもすくすく育ちます。

はじけ飛ぶ種は、まるで「自分の道は自分で切り開いていくよ」と言わんばかりの自立したエネルギー。控えめだけど芯が強い――そんな姿に、私たち大人も勇気づけられるんじゃないかなと思います。

誰かにとっての鳳仙花は、きっと「おばあちゃんちの庭にあったなあ」とか「小学校の裏庭で見たな」とか、記憶と結びついているもの。

時代が変わっても、鳳仙花が咲いていれば、ふとあの頃の風景や空気、匂いまで思い出せるかもしれません。花が“記憶のスイッチ”になるって、すごく素敵なことですよね。

鳳仙花は種まきから花が咲くまで約2〜3か月。鉢植えでもOKで、日当たりの良いベランダがあれば気軽に育てられます。水はけの良い土を使い、表面が乾いたらたっぷり水をあげる。そんな基本を守れば、初心者でも十分楽しめる植物です。

花が終わったあとにできるさやは、熟すまでそのままにしておくと自然に種が採れます。来年の春、またその種をまいて……そんなふうに命をつなげていくサイクルも、鳳仙花の楽しみのひとつ。

子どもと一緒に「来年も咲かせようね」と話しながら種を取るのって、なんだかすごく優しい時間だなと思います。

鳳仙花は、ただ可愛いだけの花じゃありません。そのはじける種には、力強さや自立のエネルギーが詰まっていて、花びらには子ども時代の記憶がそっと染み込んでいるような、不思議な魅力を持っています。

もしかしたら今の暮らしのなかで、「鳳仙花？見たことないな」っていう人もいるかもしれません。でもだからこそ、ちょっと立ち止まって、育ててみたり、昔の話を聞いてみたりしてほしいなと思います。

小さな花が、日常に彩りと温かさを与えてくれることって、きっとたくさんあるはずです。

今年の夏は、あなたの暮らしに鳳仙花の彩りを添えてみませんか？

A. 種が熟してから、そっと指で触れてみてください。やや茶色がかってきたら、はじける準備ができています。うまくいけば、パチンとはじけて小さな種が飛び出しますよ！

A. 園芸店やホームセンター、またはネット通販でも手に入ります。「ホウセンカ種」と検索すると、いろんな種類が出てきますよ。

A. 触るとすぐにはじけるので、種ができたら収穫タイミングに注意しましょう。種が飛ぶときにびっくりするお子さんもいるので、最初に説明してあげると安心です。