夏の終わりから秋にかけて、静かな夜の台所や縁側にふと現れる小さな虫——竈馬（かまどうま）。その姿に驚いたことのある方もいれば、どこか懐かしさを覚える方もいるのではないでしょうか。近年、自然との共生や和の暮らしが見直される中で、「竈馬」がひそかな注目を集めています。虫嫌いの方には少し勇気がいるかもしれませんが、この小さな訪問者には、日本の原風景や季節感が凝縮されているのです。
この記事では、「竈馬」の正体から名前の由来、昔から伝わる言い伝えや現代での意外な注目のされ方まで、あなたの知らない魅力をたっぷりと掘り下げていきます。秋の夜長、虫の声に耳を澄ませながら、心をちょっとだけやさしくしてくれるような、竈馬との付き合い方を一緒に見つけてみませんか？
竈馬ってどんな虫？意外な正体に迫る
名前の由来と読み方の不思議
「竈馬（かまどうま）」という名前は、実は「竈（かまど）＝台所」や「馬＝飛び跳ねる姿」から来ているとされています。夜の台所にひょっこり現れ、ピョンと跳ねる様子から、まるで小さな馬のように見えたのかもしれませんね。
この漢字表記の風情や響きも、最近では和のインテリアや季語として注目されている理由のひとつです。
姿や習性——「見た目」で損してる？
竈馬は、やや不気味とも感じられる長い脚と触角を持ちますが、実はとてもおとなしい虫。人を刺したり咬んだりすることはなく、攻撃性もありません。湿気のある暗い場所を好み、台所の隅やお風呂場、古い家の縁の下などに潜んでいることが多いです。
「ゴキブリの仲間？」と思われがちですが、実際はバッタやコオロギの仲間に近く、その声も静かな秋の虫のひとつとして分類されます。
古来より親しまれた虫——日本文化と竈馬
俳句や和歌にも登場する季節の風物詩
「竈馬」は秋の季語としても使われ、俳句の世界では「鳴かぬ虫」として詠まれることもあります。その無口な存在感が、かえって侘び寂びを感じさせるのでしょう。
たとえば江戸時代の俳人・小林一茶は、「竈馬を 逃がして我も やや寂し」と詠んでおり、その存在がどこか情緒的なものとして受け止められていたことがわかります。
「家を守る虫」としての伝承
地方によっては、竈馬が現れると「家に福が来る」「火災から守ってくれる」といった縁起の良い言い伝えも残っています。特に昔の日本家屋では、竈（かまど）は命をつなぐ場所でもあり、そこを訪れる虫は神聖視されたのかもしれません。
殺さずにそっと逃がすことで、福を逃さないという考え方も残っています。
なぜ今「竈馬」が注目されるのか？
和の暮らし・自然との共生の象徴に
ミニマリズムや古民家暮らし、和の生活様式に注目が集まる今、「竈馬」はその象徴的な存在になりつつあります。自然とともに生きること、季節を感じること、その一部として虫の存在も受け入れる。そんな生き方に共感する若い世代も増えてきました。
SNSでは「#竈馬のいる暮らし」などという投稿も見られるようになり、ちょっとしたカルチャーとしての広がりを見せています。
昆虫観察ブームと親子の触れ合い
また、子どもたちの夏休み自由研究の一環として、身近な虫を観察する流れの中で竈馬が取り上げられることもあります。外来種が増える中で、在来種である竈馬を知ることは、自然環境への関心を育てることにもつながります。
「怖い」と思っていた虫も、親子で調べてみると、「おとなしくて面白い」「見た目にびっくりしたけど可愛く見えてきた」といった声も。
竈馬とどう付き合う？暮らしの中での工夫
害虫ではないけれど、出てきたらどうする？
基本的に竈馬は人間に害を与える虫ではありません。しかし突然現れるとびっくりしてしまいますよね。
どうしても苦手な場合は、手で触れずに紙とコップなどで優しく外に逃がすのがベスト。殺虫剤を使うのではなく、あくまで共生の意識で対応する人が増えています。
湿気対策で予防する
竈馬は湿気が大好きなので、日頃から換気を心がけたり、除湿機を使ったりすると家の中での出現はぐっと減ります。特に梅雨明けから秋口にかけては要注意。
畳の下や押し入れ、風呂場など、湿気がこもる場所はこまめに掃除しておくのが安心です。
竈馬の姿から季節を感じる
「また今年も来たな」と思えたら、それはあなたが季節の移ろいに敏感な証拠。竈馬は夏の終わりと秋の始まりを知らせる、小さな使者とも言えます。忙しない日々の中で、こうした小さな自然の変化を見逃さずにいることで、心にも少し余裕が生まれるのではないでしょうか。
まとめ
竈馬は、見た目こそ少し驚かれることが多い虫ですが、実はとてもおとなしく、そして季節の風情をそっと伝えてくれる存在です。日本の伝統文化の中では縁起物とされてきた背景もあり、現代の「自然と共にある暮らし」への憧れとも重なりながら、静かに再注目されています。
台所の隅にふと現れる竈馬に、ぎょっとするだけでなく、「ああ、秋が近づいてきたな」と感じられたら、それはとても素敵な感性です。
虫との共生は、小さな自然とのつながり。そうしたつながりを大切にすることで、私たちの暮らしもまた、豊かになっていくのかもしれません。
この秋は、竈馬という小さな訪問者に、ほんの少しだけ優しい目を向けてみてはいかがでしょうか。
